「倫理的配慮」の独り歩き①
研究を始める前の研修会などでは、倫理的配慮には気を付けるように、どんなに価値のある研究でも倫理で引っかかったらアウトですよ、と繰り返し説明します。
研究経験者の先輩方からもアドバイスを受けるようで、初めて研究をする看護師さんたちも、この項目はきっちりと書いてきます。
けれども、連結式でもない無記名質問紙調査なのに、
「研究の途中で参加を中断できる」
と書いてあったり、院内研究で〇〇病棟の新人看護師全員を対象としたものなのに、
「研究参加者は特定されないように配慮し・・・」
と書いてあったりします。
その一文をどのように具体的に行うかの記載がなく、あまりに抽象的で、普通に考えれば不可能なお約束です。
研究に少し慣れてくると、「倫理的配慮」にものすごくこだわる人がでてきます。
自分の研究に対して、いかに倫理に配慮しているか詳細に述べ、細心の注意を払う、というのは、そこまでする必要はないと思うけど、やりたければやってはいけないものでもないから、まぁどうぞ、というかんじです。
研究専門の大学の先生で
「データの入ったUSBは研究終了後に破壊する」
と書いている方がいて、なんだかその一言が論文の中で一番印象に残るということもありました。
これは表現方法の問題なんでしょうけれど。
さて、自分の研究の倫理にこだわる人は、人の研究に対しても面倒くさいことを言ってきます。
「研究対象者が特定されてはいけない」
ですが、臨床の看護師さんの定番、自分の勤務する病院の看護師を対象に研究する場合、さらにそれが新人看護師、中堅看護師、男性看護師、などに対象を絞る場合、どうしたって対象者は院内のスタッフにはなんとなく誰のことかわかってしまいます。
たとえば、「親の介護と勤務を両立させる工夫」を研究テーマにするとします。
昨今、社会問題となっている、親の介護による離職を、三交代勤務をしながら看護師はどうやって乗り越えていっているのか、という興味のあるテーマです。
しかし、介護をしている看護師、ということである程度院内のスタッフには誰が対象になっているかわかります。
こういう時に、「研究者が特定される」という理由で、クレームがついたりします。
これは、研究対象者に研究協力依頼をする時点で、
「データの扱いには注意を払うが、発言内容によっては個人が特定されるおそれがある」
という説明をし、そのうえで、看護師という専門職の個人の判断で参加を決めていただき、研究方法に、倫理的配慮を行ったためにおこる制限を説明し、必要ならば最後に、制限をしたためにおこる研究の限界を記載すれば問題ないことだと考えます。
平たく言えば、判断能力のある人が、
「身バレしてもいいよ」
と言って研究参加してくれるなら問題ない、ということです。
しかも、院内研究の場合は、職員対象で自由意志での参加だとわかれば、よほどのことがなければ倫理上問題になることはないと思います。